『精神科医が教える 良質読書』

 

要点

1、「不親切な本」を読むことで、はじめて成長できるようになる。

2、「三角読み」で、読書が長続きする。

3、感動が読書の原動力になり、「わかった気になる」ことの積み上げが、飛躍につながる。

4、「頂にある本」を心の糧に。

要約

 

 「不親切な本」を読むことで人は成長する

 

最近ベストセラーになる本は、知識や教養についてわかりやすく書かれ、デザインなど読みやすい工夫が施された本が多い。こうした「親切な本」から知識を増やすことも、もちろんよいし便利である。

しかし、それだけでは成長に結びつかない。筋トレでも、ある程度負荷をかけてはじめて筋肉がつく。同様に、背伸びをして、知恵と経験を振り絞りながらでないと理解できない「不親切な本」を読むことで、人ははじめて成長できる。そして限界や壁を突破できるようになるのだ。

読書嫌いによる読書嫌いのための読書術

集中力ゼロでも続けられる「三角読み」読書術

集中力がない人でも、散漫力を読書に活かすことができる。1冊の本をずっと読むのではなく、高レベルの本や、すらすら意味がわかる本を2、3冊かわるがわる読む。そうすれば飽きがこず、それぞれの本の関連するポイントが見つかり、テーマを深掘りしやすくなる。

この散漫力を発揮した読書をさらに進化させたのが、「三角読み」読書術である。「ごはん・おかず・味噌汁」の三角食べと同様に「読む・考える・書く(ツイートする)」をくり返すことで、読書が長続きするというわけだ。

このときツイッターがメモ帳がわりになる。ツイッターに思いついた内容を書くことで、頭をニュートラルな状態にして、読書や思索に戻っていける。

1冊あたり10分だけ集中読書をし、6冊を1時間で一巡させるというのも手だ。また、原本とその解説本を行ったり来たりする「振り子読み」という方法もある。「つまらない」と感じたら、無理に読み続ける必要はない。読書嫌いには読書嫌いなりの読み方があるのだ。

感覚的読書法のすすめ

「感動」こそが読書の原動力

ある講師が自分の専門分野について、一般の方が面白く、ためになると感じるように話をするとき。そして、講師がつい熱くなり、自分の興味あるテーマについて夢中で語るとき。参加者の満足度が高いのは後者だという。講師が熱くなっているときのグルーブ感やノリは、聴く者にも伝わり、理解の度合いが上がっていくためだ。

これは「頂にある本」にも当てはまる。強烈なエネルギーを発する本に出会うと、共鳴して読者のなかに深い感動が生まれる。さらには、「もっと読みたい」という気持ちや、そのテーマについての興味が喚起されていく。「感動」が読書の原動力になるのである。

「わかった気」の積み上げが飛躍を起こす

このとき重要なのは、「わからないことをわかった気になる」ことである。もちろん、見栄を張って知ったかぶりをするのではない。本の内容についてわからない点があっても、高揚感があれば、おのずと理解しようと一生懸命な姿勢になる。わからないなりに全体に面白みを感じていると、少しずつ「わかった気」が積み上がっていく。こうして、より遠い次元へと思考を飛躍させられるようになるのだ。

 

「頂にある本」をめざす

読むべき本の上手な選び

読書が苦手な人は、自分にとって「読むに値する本」を見分ける必要がある。本を3つのレベルに分けるとしよう。

(1)3行ごとに感じ入る本(出会うことは稀)

(2)5ページに1か所は「お!」と思わせてくれる本(10冊に1冊くらい)

(3)20ページに1つくらい学ぶことがある本(5冊に1冊くらい)

これらの本に対して、感動や学びを与えてくれない本、いわば「はらわたが動かない本」もたくさんある。たとえ他の人にとっては良書でも、自分にとってそうでない本ならば、その読書に時間を費やすべきではない。読み飛ばす技術、速読の技術が必要となる。

では、自分にとっての良書をすばやく判断するにはどうしたらいいか。それは、まえがきと第1章、または自分が最も興味のありそうな章を読むことである。

本のレベルがわかるようになるには、自分が非常に関心をもっているジャンルのなかで、5~10冊ほど読んでみるとよい。すると、そのジャンルの本のレベルや著者の知的レベル、関心のレベルがわかるようになり、選択眼が鍛えられていく。あとは本の冒頭にサッと目を通すだけで、自分にとって「読むに値する本」かどうかを峻別できる。

また、良書ははじめの50ページを読んだだけでも、かなりのパワーを感じさせる。これに対し、100ページ読んで感銘を受けるところがほとんどない本なら、すぐに閉じたほうがよい。

このように、読むべき本を上手に選べるようになれば、読書は人生のなかでかけた時間に比例するすばらしいものになるだろう。

読めない本=自分を成長させる本

どんなジャンルでもよいので、「好きだけれども難しくて前に進めない本」を必ず1冊はもっておきたい。読めない本は自分を成長させてくれるからだ。

著者のは、埴谷雄高『死霊』や、神秘思想家のG・I・グルジェフベルゼバブの孫への話密教経典場合の1つ大日経が、「読めない本」にあたる。とりわけ大日経はエベレスト山のような最高峰の本、「頂にある本」にあたる。理想的なのは、読めない本を1冊または何冊かもっておき、一方で情報を仕入れるための読書をするというものだ。

「ものすごく魅力的で挑みたいけれど、まだ自分には読めない。でも将来的には読めるようになりたい」。そんな「頂にある本」を心の糧にすると、日頃の読書でも良い緊張感が生まれ、読書欲が刺激されていく。それが自分の壁を突破するきっかけになるだろう。

著者は、5ページも読むと疲れてしまうような、量子力学の難解な本を携帯しているという。自分の薄っぺらい知識や感覚が拒絶され、心に「ドシン」と響く。そんな本をもっているだけで安心感を得られる。

できれば50年、100年という歴史の風雪を耐え抜いてきた本、「古典」が望ましい。そんな最高レベルの本を鞄に忍ばせておけば、心が落ち着き、読書の楽しみも増えていくはずだ。

本との出会いはタイミングがすべて

タイミングが来るまであえて積読しよう

人との出会いと同じように、本との出会いにもタイミングがある。タイミングがズレると、どんな良書でも響いてこない。自然に手に取りたくなるときが最高のタイミングである。

読むタイミングはまだでも、自分のアンテナに引っかかった本はとりあえず購入しておく。タイミングが来るまでは、積読(つんどく)すればよい。「あの本を読みたい」という欲求が、いつ起動するかはわからないからだ。大半は読まなかったとしても、積読して将来読む本の中には、人生の一里塚になってくれる本もある。

ディスプレイで自分の脳内を「見える化」する

何冊も並行して読書したい方には、電子書籍が重宝するタブレットなどで膨大な量の本を持ち歩けて、試し読みもできるからだ。

電子書籍のディスプレイは、脳内を「見える化」するのに役立つ。著者は現在、量子論に関する本を数冊読んでいる。著者にとって大事な読書テーマである空海量子論や宇宙物理学とは、思想的に響き合っていると感じているためだ。電子書籍のディスプレイは、購入書籍の一覧であるため、空海量子論という、自身の興味あるテーマが可視化された小宇宙となっている。この脳内の「知的好奇心曼荼羅」を目にすれば、自分の興味を客観的に「見える化」できる。それも電子書籍を活用する大きなメリットだ。